※捏造満載、官僚×土方含みます。



小さい頃、人に触ったり触られるのがすごく嫌だった。
今もスキンシップは得意な方じゃねぇ。
スキンシップが大好きな近藤さんも、俺が苦手なのを知ってて触って来るのを遠慮してる。

気を遣わせて悪ィとは思うんだがな(特に近藤さんはスキンシップが命みてぇなとこあるし)

なんで苦手なのか理由は分からねぇ。
昔からベタベタするのもされるのも、あんまりそういう機会がなかったからかもしれねぇ。

深く突き詰めるつもりが無かったので、理由については大して気にしてなかったのだが。


「満月 エピソード1」



その日は雲一つねぇ満月だった。
人気の無い公園の背もたれのないベンチに、刀を置いて座った。

(…今日のあれは…まずかったよな…)

幕府のお偉方の接待の席でいわば「やってしまった」
その日は近藤さんと二人で、高級居酒屋に招かれたのだが。
俺にベタベタ触って来た並河っていう高官の手を払いのけてしまった。
一応謝ったが、奴はかなり機嫌を悪くしていた。

屯所への帰り道、ちょっと頭冷やしてから帰る、と、近藤さんと別れた。
(ちっ)
(大体馴れ馴れしいんだよ、あの野郎。いい年して男なんぞにベタベタしてくんじゃねぇ)
恐らく年は四十過ぎの頃だろう、その並河の、真選組をよく思ってねぇくせに、いかにも手を貸してやってる態度が前から気に入らなかった。
…だが我慢するべきだった。

思いにふけっていると、後ろから声がかかった。

「ちょっとー そのベンチは俺のなんですけど」
(ちっ…面倒くせぇ奴に会っちまった)
声をかけてきた…というか喧嘩を売って来たのは、銀髪の天然パーマ、万事屋だ。
「なんでてめぇのベンチなんだよ。俺が先に座ったんだから今は俺のもんだ」
万事屋は俺を見降ろしつつ(その態度がムカつく)ベンチに置いた俺の右手の辺りを指さした。
「そこ、見てみろ。俺の名前が書いてあんだろ?だから俺のベンチだ」
確かに小さく「銀時」と書いてあった…が。
「名前書いたからっててめえのもんになるわけねえだろ!公園のベンチってのは公共の…」
激昂して立ち上がった途端、ふと目眩がした。

(なんだ? …な…んか気持ち悪ィ)
(…譲るのはしゃくだが、仕方ねぇ立ち去ろう)

「ちょ、おま、刀忘れてどうすんの!」
歩き出した俺に万事屋が声をかけ、右肩を掴まれた途端。
ばしっと万事屋の手を払いのけてしまった。
「うわっムカついたわ 人が親切に…」
万事屋がごちゃごちゃ文句を言ってたが、あまり聞こえてなかった。
(野郎に触られた感覚が…蘇って来た)
(本気で気持ち悪ィ)
思わずその場にしゃがみこむと、「どした?」と思いがけず優しい声が聞こえてきた。

「なんだ?おめー飲み過ぎたのか?」
背中に手がそえられ、どうやら万事屋が俺の背中をさすっていると気付く。

(…今度は触られてもなんでもねえ)
「吐いちまった方がいいぞ」
「…ほっといてくれ」
みっともない姿を見られたくなくて、そう言うと、万事屋が立ち去る気配がして、急に辺りがシンとなる。

しばらくうずくまっているうちに、大分落ち着いてきた。
屯所に戻ろうと思い立ち上がると、突然目の前にペットボトルが差し出された。
「水飲むか?」
「な…帰ったんじゃ…」
「言ったろ。このベンチ俺のだって」
驚いて振り向いた俺の態度がおかしかったのか、万事屋はニヤニヤしていた。

「…満月の夜は、ここで缶ビール一杯やんのが好きなんだよね」
そう言って万事屋はベンチに腰かけた。
ぷしゅっと缶を開ける音が響く。
俺は、なんて反応していいのか分からずに、ペットボトルを持ったまま突っ立ってた。

「あ、酒の匂いはやべえか?」
(…だから飲み過ぎたわけじゃねぇんだよ)
俺が黙って首を振ると。
「その水、飲めば?この部分なら貸してやってもいいけど?」
とんとん、と万事屋がベンチの右側の部分を叩いた。

「……」
万事屋に言われるまま同じベンチに座ったのは、(ただし、人二人分は間を開けて座った)もう少し休んでいたかったのもあるのだが。
めずらしく俺にはっきりと嫌悪感を示してこねえこいつと…
同じ場所にいるのも悪くないと思ったからだ。

俺は財布から千円札を出して、ぴらっと万事屋の方に差し出した。
「ビールくれ」
「…飲んだ途端に吐かないでよ」
「問題ねぇ」

「…釣りがねえから、つまみもやる」
(柿ピーかよ。しけてんな)
だが、釣りを気にするなんて、いつもの万事屋らしくもない態度につい微笑んだ。
(…柿ピーでもいいか)

それからお互い一言も会話せず、俺は万事屋と同じようにビールを片手に満月を眺めた。
闇にくっきりと光る月が…柄にもなく綺麗だなんて思った。



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そんな訳で新連載です!
今回は小説にて…
本誌読んでらっしゃる方は「あれ?」と思うかもしれませんが、
書き始めたのが半年前以上なので本誌要素が一つもありません^^;



後書き(ブログ)

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